LifeFilm Case 01
77歳|ラーメン屋の店主|東京・笹塚
七十年続いた父の店を、
閉じる前に。
26歳の頃から父の店に立ってきた店主。
再開発による閉店が近づく中、
いつものように厨房に立つ姿と、
残っていた言葉を記録しました。
※実際に製作したLifeFilmの一部を抜粋したものです。
この店に立ち続けた時間
煤けたカーテンの隙間から、
白い朝の光が差し込む。
古い振り子時計が時を刻み、
店主は大きな寸胴を火にかける。
店の中にある物の配置を、
身体がすべて覚えているようでした。
父が始めたラーメン店に、
26歳の頃から51年間、立ち続けてきました。
父が亡くなったあとに店を継ぎ、
母の引退後は、一人で営業を続けてきました。
「この店の中でしか生きてこなかったけど、
本当に悔いが何もない」
そう語った店は、
再開発により閉店を控えていました。
映っているのは、
店の記録だけではありません。
麺を上げるときの沈黙。
客が食べ終わる頃を見計らい、
自然に声をかける姿。
長く立ち続けた厨房で、
迷うことなく動く手と身体。
「父が作ったものを最後まで
大切にするという信念でやってきました」
店主の言葉とともに映っているのは、
店を続けてきた年月そのものです。
閉店後には、
もう撮り直すことのできない姿でした。
映像が届いたあと
完成した映像を見た店主は、
「映画みたいだね」
「綺麗に撮ってくれてありがとう」
と話してくださいました。
ご家族からは、
これまで店を撮った映像の中で、
「一番残すべき映像になったね」
という言葉をいただきました。
店主は、常連客が訪れるたびに
店内のテレビで映像を流し、
離れて暮らす家族や親戚、知人にも
LINEで映像を送っていました。
映像を見た人から届いた言葉を、
店主は嬉しそうに話してくれました。
その後、店主の紹介により、
近所のせんべい屋の女将さんの撮影にもつながりました。
店が閉じたあとにも、残るもの
店が閉まる前に。
いつもの場所がなくなる前に。
家族や常連客が、
見慣れていると思っていた姿を、
あとからもう一度見つめられるように。
父から受け継いだ店に立ち、
迷いや誇りを抱えながら、
長い時間を過ごしてきた一人の姿を残しました。
店は閉じましたが、
その人が店に立っていた時間は、
今も映像の中に残っています。