LifeFilm Case 02
76歳|せんべい屋の女将|東京・笹塚
店がなくなる前に、
夫婦で立ってきた姿を。
20歳の頃に嫁いだせんべい屋で、
家族とともに働き続けてきた女将さん。
再開発による閉店が近づく中、
お店に流れていた時間を記録しました。
※実際に製作したLifeFilmの一部を抜粋したものです。
この店で重ねてきた時間
焼き場では朝からオーブンが動き、
香ばしいタレの匂いが広がっていました。
女将さん、ご主人、息子さん夫婦が、
ラジオを聞きながら黙々と手を動かしている。
20歳の頃、縁談をきっかけに嫁いでから、
女将さんは56年間、この店に立ってきました。
焼き上がったせんべいにタレを塗り、
缶に詰め、店を開け、
訪れる客を一人ずつ迎えていく。
再開発による閉店を控えていても、
店の中には、
いつもと変わらない朝の時間が流れていました。
「お父さんも、撮ってあげて」
撮影は、
女将さんを中心に始まりました。
しばらくすると、
女将さんが焼き場に立つご主人を見て、
声をかけました。
「お父さんも撮っ てあげてよ」
「もう店も長くないから、
この人も綺麗に撮ってあげて欲しいの」
ご主人は作業を続けながら、
その言葉を黙って聞いていました。
長く一緒に店に立ってきた人の姿を、
店がなくなる前に残しておきたい。
その思いから、
この映像には夫婦で働く姿が残っています。
映像が届 いたあと
完成した映像を見た女将さんは、
少し恥ずかしそうにしながら、
こう話してくださいました。
「こうやってちゃんと残すことができて、
少し安心できました」
映像は、
家族や店に馴染みのある人にも
見てもらえる形で届けられました。
撮影から間もなく、
店の取り壊しが決まりました。
店がなくなったあとにも、
残るもの
現在、せんべい屋があった場所には、
新しいマンションとスーパーが立っています。
焼き場の熱も、
タレの香りも、
客を迎えていた女将さんの声も、
その場所からはなくなりました。
それでも映像を見れば、
あの朝の店の中へ、
もう一度戻ることができます。
店がなくなる前に。
毎日の風景が過去になる前に。
そこに立っていた人たちと、
家族で重ねてきた時間を残しました。